瓶ビールと言うのは何か特別な感じがする。子供の頃、正月に親族の集いの仲でビールを舐めたりしたことがあったが、いわゆるハレの日に呑む飲み物であり、缶ビールとは大きな差が有ると子供ながらにも感じていた。その頃のビールはやっぱり王道のキリンラガーで、王冠の裏にはなぜかコルクが貼られていた。そうした事も駄菓子屋で飲んでいた瓶のコーラやチェリオとも明らかに違う、存在感が際立たせる理由の一つだった。![イメージ 1]()
![イメージ 2]()
![イメージ 3]()
キース・ジャレットである。
前回のスタンダードトリオでの来日から、ほぼ一年ぶり。自分にとっても初めての彼のソロコンサート。いわゆるスタンダードの曲は演奏はされない。キースがソロで来るということは、improvisation=即興演奏。これまで彼に限らず即興演奏によるJAZZは、学生の頃を除けばあまり得意ではなかった。John Coltraneしかり、Ornette Colemanしかり。混沌としたFree Jazzと言うのは、聴き手にも体力と知力を要求する。若さ故の体力と知力に任せてこうしたFree Jazzを聞きあさっていた時期もあった。Kiethに関してももちろん10枚程度のImprovisation主体のアルバムを持ってはいるものの、頻繁に聞いたり積極的にコンサートへ出かける事もこれまでは無かった。やはりスタンダードやいわゆる『作曲』されたものの方が聞き心地がいいということもあるので、音楽と言うその文字が記している通り『癒し』や『高揚』、『安寧』などの心の拠り所からは常に遠い位置にいた。ただ40と言う齢を過ぎてからKiethに限定すると、彼のimprovisationから創り出す旋律は濃密に熟成されたウイスキーのように芳香で甘美な味わいへと聞き手の熟成度合いにも呼応してその印象にも変化が生じていた。若い頃であれば敬遠していたであろうそのコンサートの構成は2部構成で、1部5曲、2部4曲、アンコール4曲の全てがimprovisationであり予想通りの濃厚で芳醇な2時間半を過ごす事ができた。
瓶ビールと言うのは何か特別な感じがする。
Kiethのコンサート前に入った吉野家のビールも瓶ビールだった。サッポロ黒ラベルも王道のビール。キンと冷えたグラスに瓶ビールを注ぐあのひと時。特別な時の特別な瓶ビール。冷たくてほろ苦くていつもの味と同じなのに、ちょっとだけ違う特別な感じ。格別な旋律と格別な瓶ビール。この儀式だけは誰にも譲れない。そんな独り呑み。渋谷の雑踏はいつもの日常と変わらず、自分の心と耳はいつもの日常と違う特別な時間が流れていた。やはり、瓶ビールと言うのは何か特別な日に呑むのがふさわしい。